被災地で生まれた夢

 ある現場で草刈りをしました。ちょっと物足りなさそうに作業をするメンバーを見て、昼休憩の時に現地の方がこの現場に関する話をしてくれました。

「ここは、津波で1階部分が水没して3日間水が引かなかった。津波が引いた後は町中がれきだらけになった地域だよ…」

 この場所は、津波後はがれきだらけだったので、ボランティアさんたちできれいにしました。その後、表面の汚い土を削って捨てて、土地を平らにして、きれいな土を入れました。

「がれきを撤去した後、この場所は今後どういう場所にしようかって話した時に、子供たちの遊び場にしようってなったんだよね。」

 ボランティアさんたちが沢山来たことで、この地域はがれきは徐々に片付いてきました。しかし今でも、細かいがれきの破片はいっぱい残っていたので、小さな子供たちが安心して遊べる場所はほとんどありませんでした。

「そして、フットサルチームの方を招いて、子供たちのサッカー教室を開いたのさ。すると、子供たちが30人集まったよ。小さな子供たちだったから、だいたい皆、お母さんと一緒に来てたね。もちろん、子供たちは普通に楽しそうにサッカーをやってたんだけど、驚いたことに、それを見ていた親たちがほとんど泣いてたんだよね…」

 震災後、子供たちは外で遊びたくても、危なくて親が止めていた。でも、親心としては子供たちを思いっきり外で遊ばせたかった。その光景をやっと見ることができた親が、感極まって泣いてしまったようです。

「そのことがあってから、子供の遊び場はこの地域にとって必要だと確信が持てた。だから、きちんとした芝のグランドにして、子供たちに思う存分サッカーを楽しんでもらえる場所にしよう!ということで芝の種を蒔いた。そして今、少しづつ芝が根付いてきたところなんだよ。」

 とても楽しそうに語られていました。話によると、芝というのは種から蒔いて育てるのが一番しっかり根を張るようです。できた芝を持って来て敷き詰めるだけだと、見た目はきれいだけど、土地への根付きがあまり良くない、だから種から蒔いたようです。予定では、来年になればきれいな芝のグランドが完成するようです。

「今では、ちょっとした夢があってね。それが、このグランドからサッカーの日本代表選手が生まれることさ。もちろん、ここ数日や数年で実現することじゃない。実現するとしても10年後や20年後、30年後かもしれない。だから、夢が実現する頃には自分はもう、この世にいないかもしれない。だからこそ、こういう夢を次の世代の若い人たちへ託したい…それも一つの夢かな。」

 震災後は、ただただ必死に動いていただけだったけど、その中から具体的な夢が出来上がっていったようです。
 そして最近は、夢を考えることが楽しくて楽しくて仕方ないんだと話されていました。

「夢は、自分自身が生きる力の源になってる。夢は、苦しい環境を乗り越える力をくれるよ。逆に夢がなかったら、自分も鬱や精神病にかかっていただろうな〜って思うよ。やっぱり人間は、考えるだけでわくわくする夢を持ってる方が、いい生き方ができるんだな〜って震災後は特に感じるね。」

 最初は、傷付いた子供たちに元気や夢を与えたい一心で活動を始めた。でも今では逆に、その夢が自分の支えてくれている、その夢が自分に生きる力をくれる。この感覚が、自分でも不思議に感じたようです。

 昼休憩が終わって午後の作業を始めたら、みんな草刈りに熱中していました。

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