自然と寄り添う生き方 [後編]

東日本大震災の被災地で、農家のお父さんから聞いた話です。この人は震災前から農家を経営していて、お米を中心に複数の野菜を栽培していました。

震災後、新たにお米の無農薬栽培に取り組みました。

しかし、始めてから最初の3~4年は大変でした。今までは農薬のおかげで抑えられていた虫や雑草や病気ですが、農薬に頼らずにそれらの対処をするのは簡単ではありませんでした。全く実りが無い年もあり、苦労だけが増えたように思ってしまう時もありました。始めてから5~6年くらい経って、ようやく形になってきました。

ある時、地域の子どもたちと一緒に、うちの畑で生き物の生態調査をしました。すると、田んぼからいろんな種類の生き物が見つかるんで、子供たちも大喜びで専門家から驚かれたことがあります。無農薬栽培の成果の一つだと思い、嬉しかったです。

また、震災直後にボランティアでこの町に来たネギ農家の人と出会いました。同じ農業仲間ということで話が深まる中で「この地域の気候なら、おいしいネギが育ちますよ」と、自身の畑のことや栽培のノウハウを教えてくれました。震災前は、この町でネギを生産している農家が無かったので、聞く話の一つ一つが新鮮でした。この縁がキッカケで、この町で前例の無かったネギ栽培にも挑戦しました。うちで栽培している他の野菜と似た要領かと思いましたが、取り組んでみると勝手が全然違い、最初は慣れませんでした。しかし「この気候ならいけるよ」と勧められただけあって、要領を掴めば安定して育ってくれるようになりました。

それから数年後、気付けばネギ栽培は、うちの畑でメインに育てる農作物になっていました。すると徐々に、町内にもネギを栽培する農家が増えてきて、町からも一つのブランドとして取り上げられるようになりました。それ以外にも、お米の無肥料栽培、ワイン用のブドウ栽培、漢方で使用する薬草の栽培など、日々挑戦を続けています。

一方、農業に関心があるからやりたい・学びたい人たちを受け入れる農業体験プログラムも作りました。

一般的な農業体験は、種を植えてから収穫するまでの全工程を体験しようと思えば、半年~1年といった長い期間を必要とします。短い期間では、生産工程の一部分しか体験できないからです。これが、農業体験の短所とも言えますが、一通り経験するのに時間がかかるんですね。手軽さが無いんです。しかし、うちの農業体験は少し違います。

参加者はまず、自身で畑を耕して種を植えて水をあげる工程を行いつつ、以前の参加者が植えた作物を収穫して出荷する工程も行います。これを繰り返すことで、参加者は常に、自分が植える作物の最初の工程と、以前の参加者が植えた作物の最後の工程を同時に経験するんです。

この形は、“次の参加者のためを想って私が種をまく” という意味を込めて “恩送りファーム” と呼んでいます。そのため震災後、最初は “ボランティア” としてこの町を訪れた人が、次は農業体験の “参加者” として町を再び訪れる、というケースもあります。

震災後は、本当にいろんなことがありました。一連の出来事で学んだのは、自然との向き合い方でした。仲良く付き合いたいと思っていた私は、例え苦労が増えるとしても、自然に寄り添う生き方を選びました。自然と人間は切っても切り離せない関係です。自然は時によって、人を生かしもすれば殺しもしますが、どちらに転ぶかは人間次第です。私は多くの人に、“自然に対する良き向き合い方” を見つけていただけたらと思っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です