あるお宅のがれき撤去をしました。そこは、津波によって家の一階部分がやられてしまった地域です。依頼者さんは「うちは古い家だけど、運良く、家は流されずに残ったから良かったよ。」と言われていました。依頼者さんは今、がれきを撤去して家をリフォームするか?それとも、解体して別の地域に移り住むか?とても悩まれていました。
そんな説明を受けた後で、みんなでがれき撤去をしました。
午前中の作業が終わって昼休憩に入ったとき、メンバーたちがあることに驚いていました。インフラが復旧していないのです。ここは、電気もなければ水もないしガスもない。おまけに地盤沈下で、潮が満ちると庭が冠水して車の出入りができなくなります。なので、トイレが無いのはもちろん、夜になるとその地域一帯が真っ暗になって何も見えません、そんな場所でした。
ボランティアなら、日中の作業する時間だけしかその場所にいません。でも、この地域に自宅を建てて住み続けるとしたら、ものすごく大変だと感じました。ここまで何も無いと、普通の生活をすること自体が大きなチャレンジだと、周囲を見渡すだけでよく分かりました。
がれきの撤去がだいぶ進み、作業がひと段落ついた頃、現地の方がこんなことを話されていました。
「この辺りは、ご覧の通りインフラが復旧していないんだよね。
この地域のインフラを全て整えようと思えば、おそらく、数十〜数百億はかかるだろうなってことくらい、素人でも分かるよ。でも、日本は今借金が多いから、そこまでのお金をこの田舎に落とせないだろうね。」
「仮に、お金がおりてインフラを整備したとしても、ここは元々田舎で不便な地域だから、震災前に住んでた住民が戻って来ない可能性があるのさ。私の予想では、下手すると10人〜20人しか戻って来ないだろうね。しかも、そのほとんどがご老人。若い人は住まないだろうね。」
「そうなると、わずか10人〜20人のご老人が10年〜20年の間そこに住む為に、国が数百億の税金をかけることになる。しかも、20年後には誰も住まない地域になってる可能性が高い。」
「こう考えてみると、国がお金をかけれないっていう理由も分かるよ。確かに、ここに住みたい者にとっては大変だけどね…」
そう語られるお父さんは、特定の誰かを責めているわけではありませんでした。作業中は常に明るく、力強く、頼りがいのあるお父さんでした。
夕方4時位に作業が終わりました。家の周囲が、見違えるようにきれいになりました。最初は全部片付けられるか心配でしたが、何とか一区切りつくところまで作業ができました。最後は、みんな笑顔で別れました。お父さんは満面の笑みでした。
この日は、お父さんからいろんな話を聞いたのですが、その中で私が一番印象に残ったのは、繰り返し使われていた
「仕方がないね…」
という言葉でした。ボソッと言われた一言でしたが、その言葉に重みを感じました。
作業中は終始元気なお父さんだったのですが、その満面の笑顔の背後にある言葉にできない寂しさや悔しさが、痛いほど伝わって来ました。