東日本大震災当時に中学生だった女性の話を、震災から2年後に聞きました。
私は、震災前の時期は反抗期だったので、母と毎日のように喧嘩してました。それが落ち着き、やっと仲良くなってきた時に震災があり、母が犠牲になりました。
それから半年後、母からの手紙 が見つかり、家族みんな驚きました。震災前に、母が家族の一人ひとりに対して書いてくれていたものでした。自分宛ての箇所を読んでいると、自然と涙がこぼれました。手紙には『いっぱい手伝ってくれて、お母さんはとても感謝してました』とあり、私の気持ちを理解してくれていたと分かり、嬉しかったです。また、夢についても触れていました。読み進めると、母は私に対して、夢に向かって頑張ってほしいと願っているのが分かり、私は “ハッ” としました。
それまでの私は、母を亡くして悲しいという “自分の気持ち” だけで、いっぱいいっぱいでした。しかし、この手紙を読んだ時、初めて “母の気持ち” に気付いたんです。母は、私に対して悲しんでほしいのではなく、夢に向かって進んでほしいと願っているのだと思いました。
そこで私は、自分の夢は何かを考えてみましたが、いきなり考えたところで、すぐに見つかるはずもありません。結局、夢は思いつきませんでしたが、母のことは大好きだったと改めて思ったので、“母のようになりたい” とは思いました。そこで、普段の母の行動を思い出してみると、家の掃除や洗濯、料理、お弁当作りを毎日欠かさずやっていました。…ということは、同じことを私もやれば、少しは母に近付けるかもしれないと思いました。
翌日から私は、料理や家事を始めました。料理経験が無くて最初は大変でしたが、続けました。それからは1日も休まず、今でも毎日続けています。ただ私は、料理があまり得意ではないため、食事中に家族からダメ出しされることもよくあります。それでも続けてるせいか、最近では「お母さんに似てきたよ」「料理してる時は、お母さんにそっくりだよ」と言われることもあります。
料理をしている時は、ちょっと不思議なんですけど、天国にいる母が私の近くまで来てくれて、私のことを応援してくれるような… 元気付けてくれるような… そんな気がするんです。例えば、学校で嫌な出来事(友達とケンカしたり、テストで悪い点数を取ったり)があった日でも、家へ帰って台所に立ち、包丁を持って料理を始めると、心が落ち着いてくるんです。どこか安心できるんです。そのせいか、外で物音がすると「お母さんが帰って来たかな?」と思ってしまう時が、今でもよくあります。
手紙を読んだあの時は、夢を聞かれても答えられませんでしたが、今なら答えられます。“大好きだった母のようになりたい” それが私の夢です。