5分あれば家族になれる

ボランティア団体のリーダーから聞いた話です。最初は、一個人のボランティアとして被災地を訪れましたが、その後、ボランティア団体のリーダーになって被災地へ大きく貢献された人です。

2011年4月上旬、個人ボランティアとして東日本大震災の被災地を訪れました。私自身がボランティア初心者ということもあり、最初は分からないことだらけで不安も多い中でしたが、周囲で活動する人たちを見よう見まねでボランティアを始めました。すると、活動を始めて間もなく、私を含む多くのボランティアは「待ち時間が長い」という共通の悩みを抱えるようになりました。

当時、ボランティアの参加者は、団体よりも個人の方が圧倒的に多かったです。ところが個人参加者の場合、毎朝8時から始まる受付の大行列に並ばなければなりません。受付け後は注意事項の説明、作業現場の割り振り、移動して作業現場へ到着する頃には11時過ぎることが多かったです。更に、依頼者さんに事情を伺って作業を開始する頃には11時半になるため、20~30分だけ作業したら1時間の昼休みに入ります。「気を取り直して、午後は頑張ろう」と思っても、3時を過ぎると作業終了になります。参加者にとっては、朝の集合から夕方の解散まで8時間の時間を割いても、活動するのは実質2~3時間という計算になります。

活動後は、ボランティア同士の「午前は何もできませんでしたね」「作業時間より待ち時間の方が長かったですね」「待ち時間が長くて逆に疲れました」という、ため息交じりの会話を耳にすることも多かったです。

そこで、待ち時間の短縮による作業の効率化を狙い、個人ボランティアを集めて新しいボランティア団体を立ち上げる流れになりました。すると、その団体のリーダーとして、まだ数日の活動経験しかない私が、ふとしたキッカケから任命されてしましました。その瞬間、私はボランティアを “する側” から “させる側” の立場に変わりました。

ボランティア団体を立ち上げて新しい流れを作ったことで、「待ち時間が長い」という課題は解決できました。しかし、参加者の抱える不安やため息は、思ったほど減りませんでした。ボランティア参加者に活動後の感想を聞くと「素人の自分が貢献できるか不安だった」「私が現地の邪魔になっていないか心配だった」「被災者にどう接したらいいか分からず、声をかけれなかった」「自分の予想と違う作業で、不完全燃焼だった」など、反省点や後ろ向きな声ばかりを耳にしました。

そこで、参加者の声を聞きつつ私自身のことを振り返ってみると、あることに気付きました。参加者が抱く気持ちは、被災地に来た当初に私が抱いていた気持ちと、ほとんど同じ内容だと分かったんです。それならば、当時の私が周囲の人にしてほしかったことを、逆にしてあげようと思いました。

その翌日から、私の動き方が変わりました。

私は、ボランティアの人たちが宿泊しているテント村全体を見渡して、不安そうな人や最近来たばかりの人、困っていそうな人を見つけては、片っ端から声をかけていきました。すると最初は 「えっ?この人は誰?」 という顔をされます。しかし、二言三言会話をすれば、相手が抱えている心配事がだいたい分かるので、アドバイスして不安を解いてあげることで、すぐ打ち解けた関係になれました。

そして、被災地の現状やボランティアの活動内容、必要な持ち物、生活のノウハウなど、必要な情報を一通り教えてあげます。すると、同じ目的を持つ仲間だと分かってもらえるので、どんな人とでもすぐに友達になれました。そんな私の行動は “ボランティアナンパだね!” と、言われるようになりました。

その一方、被災した人たちからの作業依頼は非常に多かったです。被災者からの依頼内容(家屋の泥出し、家財の撤去など)が書かれた依頼書のことを “ニーズ表” と呼んでいます。1件のニーズ表に対しては、約20人が1日がかりで作業して、やっと終わるような作業量です。忙しかった時期は、未着手のニーズ表だけ数えても5000件以上たまっていたため、まさに “猫の手も借りたい” 状況でした。

2~3ヵ月が2~3日位に感じてしまうほど、毎日が “あっ” という間に過ぎる日々でした。気付くと、一日に500人や600人の参加者をコーディネイトする大きなボランティア団体になっていました。最初は皆、顔も名前も知らない人同士ですが、共通の目的のもとに集った人たちなので、初対面でも不思議なくらい、すぐに意気投合できました。

共通の目的さえあれば、最初は赤の他人だとしても、1分あれば友達になれて、5分あれば家族のような関係になれました。そこには、人種や国境・民族・言語・宗教の壁を、はるかに越えた文化がありました。ボランティア活動を続けるほど、家族がどんどん増えていくような感覚でした。

振り返ってみれば、2011年はあっという間の1年でした。2011年の “今年の漢字” を見てみると「災」「震」「波」が上位に入る中、1位に選ばれたのは「絆」でした。もし、私が被災地へ行かなかったとしたら、正直「絆なんてキレイごとだろ」と言っていたと思います。しかし、被災地でボランティアを経験した今なら、この言葉が大差をつけて1位に選ばれたのはすごく納得できます。今まで、万単位の作業ニーズに答えてきましたが、無事にやり遂げられたのは知識や技術ではなく、“絆” があったからだと実感しているからです。

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